1章 生成AI基礎:質問と回答の基本
0章では、AIを安全に試すための考え方を学びました。この章では、目的に合う回答を得るための質問の組み立て方と、AIとのやり取りを改善する方法を学びます。
この章の対象者
- 0章を終え、文章生成AIをもう少し使いこなしたい方
- AIに質問しても、回答が長すぎる・意図と違うと感じる方
- AIの回答を安全に下書きとして使いたい方
この章でできるようになること
- 目的・相手・条件・出力形式を項目に分けた、構造化プロンプトを作れる。
- 見出し・箇条書き・コードブロックなど、構造化プロンプトに必要なMarkdownの基本記法を使える。
- AIの回答に追加の条件を伝え、改善できる。
- 回答を事実・目的・表現の観点で確認できる。
- 個人情報・機密情報を含めない練習用の依頼を作れる。
1-1. 良い質問は「目的」から始まる
生成AIに頼むとき、完璧な言い回しを最初から考える必要はありません。まず「何を達成したいか」を決め、AIに役割と条件を順番に伝えます。
| 伝える要素 | 確認すること | 例 |
|---|---|---|
| 目的 | 何のために使うか | 地域イベントへの参加者を増やしたい |
| 依頼 | AIに何をしてほしいか | 案内文の下書きを作る |
| 相手 | 誰に向けるか | 小学生のいる家庭 |
| 条件 | 長さ、言葉、含める内容 | 200字以内、親しみやすく |
| 出力形式 | どの形で受け取るか | 見出し+本文、箇条書き |
| 確認方法 | 不明点や根拠をどう扱うか | 不明な条件は先に質問する |
構造化プロンプトとは
構造化プロンプトとは、依頼を一続きの文章だけで書かず、目的、入力資料、制約、出力形式、確認事項などを見出しやラベルで分けて示す書き方です。本講座では、このように依頼の要素を区別して示す形式を「構造化プロンプト」と呼びます。
Googleの公式ガイドでも、直接的で構造化された指示、タスクと制約の明示、XML風のタグやMarkdown見出しによる区切りを推奨しています。【E4】
混同しないこと
構造化プロンプトは「AIへの依頼の整理方法」です。JSONなど、AIの回答を決まったデータ形式にする「構造化出力」とは別の概念です。初学者は、まず日本語の見出しやラベルで十分です。
構造化プロンプトの基本形
【目的】何のために使うか
【依頼】AIに何をしてほしいか
【相手】誰に向けるか
【入力資料】AIが使ってよい情報・素材
【条件・避けること】長さ、言葉、含めること、しないこと
【出力形式】見出し、箇条書き、表など
【確認してほしいこと】不明点、根拠、最終確認の方法すべての項目を毎回埋める必要はありません。短い依頼なら「目的・依頼・条件・出力形式」だけで始め、必要に応じて入力資料や確認事項を足します。この型は、AIが何を優先すべきかを理解する助けになります。ただし、詳細に書いても出力の正確性は保証されません。重要な内容は、回答後に必ず確認します。【E1】
Markdownで構造を見える形にする
Markdownは、見出しや箇条書きなどを記号で表す、構造化された文書のためのプレーンテキスト形式です。【E5】 構造化プロンプトでは、すべての記法を覚える必要はありません。次の4つだけで、依頼の区切りが分かりやすくなります。
| 目的 | 最小のMarkdown記法 | プロンプトでの使い方 |
|---|---|---|
| 大きな区切り | # 依頼名、## 目的 | 依頼、目的、入力資料、条件、出力形式を分ける |
| 条件を並べる | - 条件 | 長さ、禁止事項、必ず含めることを列挙する |
| 手順を並べる | 1. 手順 | 作業の順番や確認手順を示す |
| 入力資料を囲む | ```text ~ ``` | 引用文、原文、コードなどを他の指示と区別する |
# 地域イベント案内の下書き
## 目的
参加者を増やすための案内文を作る。
## 条件
- 小学生のいる家庭向け
- 200字以内
- 事実にない日時・場所は加えない
## 出力形式
見出し1つと本文。持ち物は箇条書きにする。
## 確認
不明な点があれば、作成前に質問する。Markdownは、AIに必ず従わせる魔法の記号ではありません。また、サービスごとに対応するMarkdownの範囲は異なります。見出しと箇条書きで十分に伝わらない場合は、日本語のラベルに戻しても構いません。表の記法などは表示環境によって差があるため、重要な依頼では箇条書きも併用します。
図表案:AIとのやり取り
flowchart LR
A[目的を決める] --> B[条件を添えて依頼する]
B --> C[下書きを受け取る]
C --> D[目的・事実・表現を確認する]
D --> E{改善が必要か}
E -- はい --> F[追加条件を伝える]
F --> C
E -- いいえ --> G[自分で仕上げて使う]1-2. 一度の質問で終わらせない
AIとの対話は、完成品を一度に受け取る作業ではありません。最初の回答を読み、「どこが合っているか」「何が足りないか」を伝えることで、下書きを改善します。
| 回答の状態 | 追加する依頼の例 |
|---|---|
| 長すぎる | 「120字以内に短くしてください」 |
| 難しすぎる | 「専門用語を使わず、中学生にも分かる言葉にしてください」 |
| 相手に合わない | 「保護者向けの丁寧な文体にしてください」 |
| 内容が不足している | 「参加方法と持ち物を加えてください」 |
| 事実確認が必要 | 「確認が必要な点を箇条書きにしてください」 |
| 選びにくい | 「3案を表にし、それぞれの長所と注意点を示してください」 |
例:曖昧な依頼を具体化する
改善前:地域イベントの案内を書いてください。
改善後:
地域の清掃活動に参加する人を増やしたいです。
小学生のいる家庭向けに、親しみやすい案内文を作ってください。
200字以内で、日時は「[日時]」、場所は「[場所]」としてください。
参加者が確認すべきことを最後に箇条書きで付けてください。改善後の依頼でも、日時・場所・参加条件などの事実は利用者が補います。AIに実在の情報を勝手に埋めさせないことが大切です。
1-3. 回答を確認する3つの観点
自然で読みやすい文章でも、事実・目的・安全性が合っているとは限りません。生成AIは、もっともらしい誤情報や不適切な引用を生成することがあります。【E1】
| 観点 | 確認する質問 | 対応 |
|---|---|---|
| 事実 | 日付、名称、数字、出典は正しいか | 公式資料を開いて確認する |
| 目的 | 依頼した相手・長さ・雰囲気に合うか | 条件を追加して作り直す |
| 表現 | 誤解や失礼、偏見を含まないか | 自分の言葉で修正する |
| 安全性 | 個人情報・機密情報・著作物を含まないか | 削除し、利用ルールを確認する |
「出典を示してください」と頼むことは役立ちますが、表示された出典自体が正しいとは限りません。出典の発行元、公開日、本文との対応を確認します。【E1】
1-4. 安全な依頼の作り方
練習や日常利用では、実名、連絡先、顧客情報、社内資料、認証情報を入力しません。生成AIサービスを業務で使う前には、所属組織の利用ルールと、サービスのデータ処理条件を確認します。【E2】【E3】
安全な題材への置き換え
| 避ける入力 | 練習用の置き換え |
|---|---|
| 実在の顧客メール | 架空の「株式会社サンプル」への一般的な案内 |
| 会議の録音・議事録 | 架空の会議メモを使った要約練習 |
| 成績・健康情報 | 匿名化した架空データ、または公開統計 |
| 未公開の企画書 | 公開済みのテーマを使った構成案作成 |
1-5. ミニ演習:案内文を改善する
次の条件で、AIに案内文の下書きを依頼してみましょう。
目的:地域の読書会への参加者を増やす
相手:読書が好きな地域住民
条件:150字以内、初めての人も参加しやすい雰囲気
出力形式:見出しと本文、持ち物を箇条書き
確認:日時・場所など不明な情報は[ ]で残す振り返り
- 依頼文に目的・相手・条件・出力形式が入っているか。
- AIが勝手に作った事実が混ざっていないか。
- 自分が参加したくなる表現になっているか。
- 次にどの条件を追加すると改善できるか。
まとめ
- 構造化プロンプトでは、「目的・依頼・相手・入力資料・条件・出力形式・確認方法」を必要に応じて分け、Markdownの見出し・箇条書きでも表せる。
- 最初の回答は下書きであり、追加の対話で改善する。
- 自然な文章でも、事実・出典・表現・安全性を確認する。
- 個人情報・機密情報を使わず、組織のルールを確認して利用する。
次の講座
次は 2章「日常・業務で安全にAIを活用する」 で、暮らしや業務の作業をAIに任せる範囲と、人が確認する範囲を整理します。
出典・エビデンス
| 本文の対象 | 根拠資料 | 確認した内容 |
|---|---|---|
| 構造化プロンプトの基本 | 【E4】 | 目的・制約・出力形式を明確にし、見出し・タグ等で指示と文脈を区別する考え方 |
| Markdownの基本構造 | 【E5】 | 見出し、リスト、コードブロックを含むプレーンテキストの構造化文書形式 |
| 誤情報・不適切な引用の可能性、確認の必要性 | 【E1】 | 生成AIにおけるconfabulation等のリスクと、信頼性の評価・管理の必要性 |
| 組織での安全な利用 | 【E2】 | AI利用者がリスクを認識し、適切な対策を講じる考え方 |
| 個人情報の入力とサービス利用 | 【E3】 | 生成AIサービス利用時の個人情報保護上の留意と利用規約確認の必要性 |
- 【E1】 NIST, *Artificial Intelligence Risk Management Framework: Generative Artificial Intelligence Profile*(NIST AI 600-1、2024年7月26日)
https://doi.org/10.6028/NIST.AI.600-1
- 【E2】 経済産業省ほか, *AI事業者ガイドライン(第1.2版)*(2026年3月31日)
https://www.meti.go.jp/shingikai/mono_info_service/ai_shakai_jisso/
- 【E3】 個人情報保護委員会, *生成AIサービスの利用に関する注意喚起等について*
https://www.ppc.go.jp/news/careful_information/230602_AI_utilize_alert/
- 【E4】 Google, *Prompt design strategies*(Gemini API。利用前に最新版を確認)
https://ai.google.dev/gemini-api/docs/prompting-strategies
- 【E5】 CommonMark, *CommonMark Spec 0.31.2*(2024年1月28日)
https://spec.commonmark.org/0.31.2/ 参照日:2026年7月14日。サービスの規約・仕様は変わり得るため、利用前に公式の最新情報を確認してください。
