0章 はじめの一歩:AIを知り、安全に試す
AIを使ったことがない方のための最初の講座です。難しい言葉を覚える前に、AIにできること、任せすぎてはいけないこと、安心して使い始める方法を知りましょう。
この章の対象者
- AIや生成AIという言葉は聞いたことがあるが、使ったことはない方
- ChatGPTなどのサービスを安全に試してみたい方
- AIを仕事や暮らしに生かす前に、基本を理解したい方
この章でできるようになること
- AIと生成AIの違いを、自分の言葉で説明できる。
- AIが得意な作業と、必ず人が確認すべき作業を見分けられる。
- 個人情報や社内情報を守りながら、AIに最初の質問ができる。
- AIの回答を「下書き」として受け取り、より良い結果に整えられる。
0-1. AIとは何でしょう?
AI(人工知能)は、人が行う「考える」「見分ける」「予測する」といった作業の一部を、コンピューターに手伝ってもらう技術の総称です。
身近な例には、スマートフォンの音声入力、地図アプリの経路案内、迷惑メールの判定、動画や商品のおすすめ表示があります。これらもAIの活用例です。
生成AIとは?
生成AIは、文章・画像・音声・プログラムなどを新しく作ることが得意なAIです。人が「何をしてほしいか」を言葉で伝えると、たたき台を短時間で用意してくれます。
たとえば、次のようなことを頼めます。
- 長い文章を短く要約する
- 丁寧なメール文の下書きを作る
- イベントのアイデアを10個考える
- 外国語を翻訳し、表現の違いを説明する
- 画像や資料の構成案を作る
大切な考え方
AIは「答えを決める人」ではなく、「考えるための下書きや相談相手」です。最後に判断し、責任を持つのは人です。
図表案:AIを使う流れ
flowchart LR
A[目的を決める] --> B[AIに具体的に頼む]
B --> C[回答・下書きを受け取る]
C --> D[事実・表現・安全性を確認する]
D --> E[自分で整えて使う]0-2. AIの得意分野と利用時の注意点
AIは、文章の整理、アイデア出し、言い換え、形式を整える作業が得意です。一方で、もっともらしい間違いを含むことがあります。また、あなたの状況や気持ちを完全に理解しているわけではありません。
| AIが得意なこと | 人が確認・判断すること |
|---|---|
| 文章の要約、言い換え、構成づくり | 内容が事実かどうかの確認 |
| アイデアを多く出す | どの案を採用するかの判断 |
| 定型的なメールや案内文の下書き | 相手に合う配慮や最終表現 |
| 表・箇条書きへの整理 | 個人情報・機密情報を含めない判断 |
| 難しい言葉の説明 | 医療・法律・お金に関わる重要な決定 |
生成AI特有の性質:ハルシネーション
生成AIは、質問に対して自然で役立ちそうな文章を作ることを得意としています。しかし、分からないことでも「分かりません」と答える代わりに、もっともらしい誤った情報を作ることがあります。この性質を ハルシネーション(幻覚) と呼びます。【E1】
ハルシネーションは、AIが意図的に人をだまそうとしているわけではありません。多くの文章生成AIは、入力と学習データのパターンをもとに、続く語句を確率的に生成します。そのため、実在しない本・制度・会社・数字・出典などを、確信があるような表現で示す場合があります。【E1】
覚えておきたいこと
自然な文章、詳しい説明、自信のある言い方は、正しさの証拠ではありません。AIの回答は、確認前の「下書き」として扱います。
ハルシネーション以外の主な特性
生成AIには、ハルシネーション以外にも、使う前に知っておきたい特性があります。次の表は代表例です。AIの種類、サービスの設定、利用方法によって現れ方は異なります。【E1】【E2】
| 特性 | どのようなことか | 使うときの心がけ |
|---|---|---|
| 回答の揺れ | 同じ質問でも、回答の表現や内容が少し変わることがある | 大切な作業は複数回確認し、採用する内容は人が決める |
| 最新情報の限界 | 現在の制度・ニュース・料金などを知らない、または古い情報を答えることがある | 日付を確認し、公式サイトなどで最新情報を確かめる |
| 指示への依存 | 質問が曖昧だと、意図と異なる回答になりやすい | 目的、相手、条件、形式を具体的に伝える |
| 文脈の限界 | 会話の前提を取り違えたり、長い内容の一部を見落としたりすることがある | 前提や大切な条件を短く整理して伝え直す |
| 偏りの可能性 | 学習データに含まれる偏りを反映し、固定観念を含む表現になることがある | 一つの見方に頼らず、相手を傷つける表現がないか見直す |
| 秘密を判断できない | AIが個人情報・機密情報かを判定しても、その判断に頼ることはできない | 個人情報・機密情報は入力せず、組織の利用ルールに従う【E3】 |
| 責任を負えない | AIの出力を利用する人・組織が、事情や価値観を踏まえた最終確認を行う必要がある | 重要な決定や対外発信は、人が確認して責任を持つ【E2】 |
この表がすべてではありません
生成AIのモデルやサービス、利用方法は変化します。それに伴い、新しい特性やリスク、対策が見つかる可能性があります。ここにないことは問題がないという意味ではありません。利用するサービスの最新の案内と組織のルールを確認し、困ったときは一人で判断せず相談しましょう。【E2】
AIの回答をそのまま使わない理由
AIは、質問に合いそうな文章を作りますが、常に正しい情報源を調べて答えているとは限りません。存在しない本・制度・数字を、自然な文章で示す場合もあります。【E1】
ハルシネーションを減らすためには、AIに「根拠が不明な点は推測しないでください」「出典を示してください」と頼むことも役立ちます。ただし、示された出典自体が正しいとは限らないため、重要な情報は公式サイトや信頼できる資料で開いて確認します。【E1】
とくに、次の内容は必ず公式情報や専門家に確認しましょう。
- 医療・健康・薬に関する判断
- 法律・契約・税金に関する判断
- 投資・融資・保険など、お金に関する判断
- 最新の制度、料金、ニュース、統計
0-3. 安全に使うための3つの約束
約束1:入力してはいけない情報を知る
公開型のAIサービスには、次の情報を入力しないでください。【E3】
- 自分や他人の氏名、住所、電話番号、メールアドレス
- パスワード、口座情報、マイナンバーなどの本人確認情報
- 顧客名簿、成績、健康情報などの個人情報
- 未公開の企画、社内資料、契約内容、IDやソースコード
仕事で利用する場合は、所属組織が許可したAIサービスと利用ルールを必ず確認します。【E2】【E3】
約束2:大事な情報は確かめる
AIの回答を使う前に、「いつの情報か」「根拠は何か」「公式情報と一致するか」を確認します。AIに参考資料や確認方法を聞くことはできますが、最終確認は公式サイトや信頼できる資料で行います。
約束3:人を傷つける使い方をしない
他人になりすます、誰かを傷つける画像や文章を作る、第三者の著作物を利用する際に権利や利用条件を確認しないことは避けましょう。【E4】AIを使うときも、普段の生活や仕事と同じように、相手への配慮とルールを大切にします。
0-4. 最初の質問をしてみよう
AIへの依頼文は「プロンプト」と呼ばれます。魔法の言葉を探す必要はありません。最初は、次の4つを順番に伝えるだけで十分です。この章ではMarkdownの記号を覚えず、日本語のラベルだけで整理します。
- 目的:何のために使うか
- 依頼:何をしてほしいか
- 条件:長さ、相手、雰囲気など
- 確認:不明な点があれば質問してもらう
すぐに使える例
目的:地域の清掃活動に参加する人を増やしたい
依頼:小学生のいる家庭向けに、親しみやすい案内文を作る
条件:200文字以内。参加日時を書く場所は「[日時]」とする
確認:不明な条件があれば、作成前に質問するこのように「目的:」「依頼:」と日本語で区切るだけでも、依頼内容を見直しやすくなります。1章では、同じ考え方をMarkdownの見出しや箇条書きで表す方法を学びます。
AIからの回答は、完成品ではなく下書きです。読んでみて「もっと短く」「明るい雰囲気に」「箇条書きで」と続けて頼むと、少しずつ希望に近づきます。
うまくいかないときの言い直し例
| こう感じたとき | 追加する一言 |
|---|---|
| 長すぎる | 「150文字以内にしてください」 |
| 難しすぎる | 「小学生にも分かる言葉で説明してください」 |
| 雰囲気が合わない | 「やさしく、親しみやすい文体にしてください」 |
| 情報が足りない | 「先に確認すべき質問を3つ挙げてください」 |
| 正しいか不安 | 「確認が必要な点と、参考にすべき公式情報を挙げてください」 |
0-5. ミニ演習:AIを相談相手にする
次のテーマから1つ選び、AIに質問してみましょう。個人情報や仕事上の秘密は使わず、架空の設定や一般的な内容で試します。
- 週末の予定を整理する
- 読んだ本の感想を3行にまとめる
- 学校・地域イベントのアイデアを考える
- 難しい言葉をやさしく説明してもらう
- お礼のメールの下書きを作る
振り返り
回答を読んだら、次の3点を確認します。
- 自分の目的に合っているか
- 事実として確認が必要な内容はないか
- 自分らしい言葉や、相手への配慮を加えられるか
まとめ
- AIは、考える・書く・整理する作業を助ける道具です。
- 生成AIには、ハルシネーション、回答の揺れ、情報の古さ、偏りなどの特性があります。ここで紹介したものがすべてではありません。
- 個人情報・機密情報を入力せず、重要な内容は必ず確かめます。
- 「目的・依頼・条件・確認」を伝えると、AIに頼みやすくなります。
次の講座
次は 1章「生成AI基礎:質問と回答の基本」 で、目的に合わせた質問の作り方と、回答を改善するやり取りを学びます。
出典・エビデンス
本文中の 【E1】 などの記号は、下の同じ番号の出典を指します。この章の事実に関する説明は、以下の一次・公的資料に基づいています。参照日:2026年7月14日。
| 本文の対象 | 根拠資料 | 確認した内容 |
|---|---|---|
| ハルシネーション、回答の揺れ、偏り、信頼性の確認 | 【E1】 | 生成AIが、もっともらしい誤情報や内部的に整合しない出力を生成し得ること、およびリスク管理の必要性 |
| 安全・責任あるAIの利用、組織でのルール | 【E2】 | AIのリスクを認識し、利用場面に応じた対策を講じる考え方 |
| 個人情報・機密情報の入力 | 【E3】 | 生成AIサービスの利用時に、利用規約等を確認し、個人情報保護上の留意が必要であること |
| 著作権への配慮 | 【E4】 | AIと著作権の関係には個別の判断を要する点があり、文化庁の考え方・ガイダンスを確認すべきこと |
- 【E1】 National Institute of Standards and Technology (NIST), *Artificial Intelligence Risk Management Framework: Generative Artificial Intelligence Profile*(NIST AI 600-1、2024年7月26日、2026年4月8日更新)
https://doi.org/10.6028/NIST.AI.600-1
- 【E2】 経済産業省ほか, *AI事業者ガイドライン(第1.2版)*(2026年3月31日)
https://www.meti.go.jp/shingikai/mono_info_service/ai_shakai_jisso/
- 【E3】 個人情報保護委員会, *生成AIサービスの利用に関する注意喚起等について*
https://www.ppc.go.jp/news/careful_information/230602_AI_utilize_alert/
- 【E4】 文化庁, *AIと著作権について*
https://www.bunka.go.jp/seisaku/chosakuken/aiandcopyright.html
利用上の注意
出典は、本章の一般的な学習内容を支える資料です。特定サービスの仕様、社内規程、法律上の個別判断を保証するものではありません。実際に利用するサービスの最新の規約・設定と、所属組織のルールを必ず確認してください。
